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岐阜のお茶旅 vol.19_近江茶の老舗 中川誠盛堂茶舗 日本最古の茶園のお茶が蘇る「日吉銘茶」

2019.01.17

 

岐阜県の西南に隣する滋賀県大津市に、安政5年創業の近江茶の老舗「中川誠盛堂茶舗」(なかがわ せいせいどう ちゃほ) があります。江戸時代末期、東海道を往来した旅人に茶を売ったのが始まりと言われています。当時お茶は僧や高級武士、裕福な町人の飲み物で、旅人の土産として珍重されていました。

 

 

お店に入ると正面には、近江茶が名を連ねます。日本五大銘茶と称される一つ「朝宮茶」を始め、滋賀県南部に位置し県内で一番の収穫高を誇る「土山茶」。琵琶湖の東部、鈴鹿山麓の渓谷に位置し、三成が秀吉に出したとされる幻の銘茶「政所茶」。滋賀県が銘茶処であることを実感します。

 

 

お茶が一般に普及し始めたのは明治の中頃からで、日清、日露の戦役に従軍した人達が帰還後、軍隊時代に覚えた喫茶の習慣が、普及に大きく寄与したと言われています。

 

 

中川誠盛堂茶舗の5代目店主の中川武さんと奥様です。このお店に訪れ、中川ご夫妻のお話を聞くと、滋賀県産のお茶の素晴らしさを心行くまで知ることができます。中川さんは茶農家から直接お茶を仕入れます。産地の風土、畑の環境の素晴らしさ、作り手の情熱を中川さんが心を込めて、お話して下さいます。お茶のパッケージには産地や生産者のお名前が丁寧に記されています。

 

 

この日、貴重な朝宮の在来種を試飲させて頂きました。美しく青々とした茶葉。白い花を思わせる香り。渋みは穏やかで、うま味が豊かに感じられます。中川さんは在来種にもこだわり、完全無農薬で作られる政所茶の在来種は、関西、関東問わず多くのお茶マニアと有名日本茶カフェの店主を魅了し続けています。茶農家との信頼関係を深く結び、生産者の情熱と努力に敬意を表す中川さんのお茶への想いが感じられます。

 

 

2017年夏から、中川誠盛堂茶舗では、日本最古の茶園「日吉茶園」にルーツを持つお茶を販売しています。比叡山延暦寺を開いた天台宗開祖、最澄(伝教大師)が805年に唐から茶の種を持ち帰り、比叡山の麓に植えたことが、日本のお茶の起源と言われています。その茶園は「日吉茶園」として今も大切に守られています。神事でしか摘まれることがない茶葉は、一般には飲まれることはありませんでした。
「滋賀県が日本茶発祥の地であることを全国に発信していきたい。」その想いが実現します。日吉大社でお茶のPR活動をしていた甲賀市の茶農家、立岡啓さんが7年かけて、「日吉茶園」の茶木をお茶として栽培し、生産することに成功したのです。立岡さんは、葉付きの若い枝「穂木」の提供を日吉大社に依頼し、約600本を譲り受けました。2010年からビニールハウスで管理し、1年後に苗として育ったのは約200本。2012年に約3000本まで増え、約2000平方メートルの茶畑に移したところ、病気で葉がすべて落ちてしまう苦い経験を踏まえました。初めて収穫できたのは2017年5月です。立岡さんの情熱と卓越した技術により、1200年の時を超えて蘇った銘茶です。

 

 

今年1月4日の日吉大社です。初詣で多くの参拝者で賑わっていました。比叡山の麓に鎮座し2100年の歴史を持ち、最澄(伝教大師)が比叡山に延暦寺を開いてからは、天台宗の護法神として多くの人々に崇敬を受けてきました。

 

 

大津市坂本、京阪坂本駅の東隣、日吉大社の参道沿に「日吉茶園」はあります。

 

 

茶園は約110平方メートルで茶木は20本。
毎年4月、日吉大社の「三王祭」の献茶式には「日吉茶園」のお茶が四社の神輿に献じられます。東京大学の研究グループが、日吉茶園の茶葉と中国浙江省天台山に現存する茶葉との比較で、最高レベルのDNA鑑定をおこなった結果、同種に間違いないとの研究結果が出ました。

 

 

1200年の時を経て、最澄(伝教大師)が唐の天台山から持ち帰った茶の種子が、今、このようにお茶として味わえる喜びに感謝の気持ちが込み上げてきます。
水色はほんのり乳白色のかかった黄緑色。繊細で複雑な香りです。渋みが感じられず、清々しい旨味、甘味が長い余韻を残します。豆を炒ったような香ばしさ、フローラルな香り、土の香りなど、複雑に香りが絡み合います。

滋賀県産のお茶の評価は高く、昨年の第71回関西茶品評会では、普通煎茶部門で農林大臣賞を受賞し1位から4位までを滋賀県産が独占しました。今回お世話になった中川誠盛堂茶舗の中川夫妻の近江茶のお話はとても素晴らしく、近江茶の美味しさ、歴史、生産者の想いを知ることができました。生産者と消費者との架橋として、深い信頼の元にお茶に携わる姿勢には、お茶への愛情が込められています。
昔は「中川茶舗」の屋号でしたが、明治の頃、日吉大社の宮司さんから「誠盛堂」の名を頂き「中川誠盛堂茶舗」に至りました。日吉大社との関係が深いことが伺えます。

中川誠盛堂茶舗 滋賀県大津市中央3-1-35
JR大津駅から徒歩5分 京阪島ノ関駅から徒歩5分

 

 

《これまでの記事》
●vol.1_見渡せば、山、山、山。山の中の岐阜のお茶
●vol.2_清らかな山の恵み。美しい村、東白川村のお茶
●vol.3_美濃白川茶発祥の地に残る いにしえのお茶
●vol.4_東白川村 昔ながらの秋のお茶
●vol.5_東白川村 五加(ごか)地区の無農薬の茶畑で・・・・。
●vol.6_郡上八幡の人々が愛する美味しいほうじ茶 田中茶舗
●vol.7_宗祇水に導かれて・・・お抹茶処 宗祇庵
●vol.8_郡上八幡 第13回 小那比茶 茶摘み・茶もみ体験
●vol.9_美濃焼の旅 土岐市 織部の日のお茶会
●vol.10_西美濃に銘茶あり 美濃いび茶 茶山正
●vol.11_尾張名古屋のお抹茶ワールド お茶と抹茶スイーツの店 茶縁
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●vol.13_有楽苑 国宝茶室 如庵  愛知県犬山市
●vol.14_Barスタイルで夏の白川茶を楽しむ。 カガミガハラ・スタンドで東白川村のお茶イベント
●vol.15_清らかな山の緑風が香る白川茶 東白川村 茶広農園
●vol.16_天空の茶園で茶の実油の魅力を伝える 春日乃売茶翁
●vol.17_郡上八幡 城下町に栄えた茶道文化 町屋カフェ さいとう
●vol18_名古屋栄のお抹茶専門店 茶々助 お抹茶を味わう日

この記事を書いた執筆者

平林典子日本茶アンバサダー

平林典子(ひらばやしのりこ)

「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。