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おごじょ茶ん日記 vol.4

2015.11.12

写真(1)

「書との出会い」

孤独を感じるようになったのは、仕事に少し慣れてきたころ。

家族経営には「定時」が無い。
お茶を製造する時期は
朝早くから、深夜まで工場は稼働する。
家族は、休みなく働いている。
体力のない私だけが、暗くなったら仕事をあがらせてもらうことに、
罪悪感を感じる。

私は家族のために役にたっているのだろうか…。

これまで経験してきた接客業では、
目の前にいるお客様を第一に先回りをして、丁寧なおもてなしを心がけてきた。
誰かのために心を尽くすことが私の仕事だったのに、
その「お客様」もいない。

そんなある日、葉書が一通届いた。
里帰りした際に宿泊した温泉旅館の女将さんからだった。
私がお土産で渡したお茶について温かいお礼の言葉と、
「遠く離れても故郷を忘れず頑張ってください」と書いてあった。
なんだか肩の力が抜け、心が穏やかに。そして、励まされた。

私も、お客様への感謝の気持ちをこんなふうに伝えたい。
お客様が喜んでくださったら、家族も喜ぶかもしれない。

書道教室に入り、子どもに混じって学ぶことにした。
子どものひたむきな姿勢、純粋に上達したいという想いに感化され、
自分もここにいるときは「書」とだけ向き合おうと決め、
無心に筆先を追った。
級が上がるたび自信がついてきて、
仕事の自信にも繋がった。

もともと絵を描くことが好きだった私にとって、アレンジは得意分野。
筆先に強弱をつけながら
踊るように文字を表現するようになった。

「香織ちゃん、お客様に代筆してくれない?」
「香織ちゃん、熨斗を遊書体でお願いできない?」

自分にしかできない仕事が見つかった。
お客様ができた。

自分に何ができるか?
それを見つけることは宝探しだ。
宝探しには苦労が付きもの。
だからどんな苦労も楽しもう。
自ずと結果はついてくる。

一枚の葉書から、書を極めたいという新たな希望が生まれ、
孤独はもうどこか遠く遠く、消え去っていた。

写真(2)

この記事を書いた執筆者

東八重香織

東八重香織(とうばえ かおり)

栃木で生まれ育ち、縁あって、鹿児島の茶農家の跡取りと結婚。2003年から鹿児島在住。「鹿児島茶」にすっかり魅了され、鹿児島茶を広めると共に、日本茶の魅力を幅広い世代に伝えたく、オーソドックスな日本茶以外に紅茶、烏龍茶など新商品の開発にも力を入れています。世界遺産仙巌園と商品開発した「武士の紅茶」が注目を浴びるなど、少しずつ前進しています。「おいしいね」とたくさんに方にいっていただけるよう、精進していきたいと思います。