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岐阜のお茶旅 vol.7_宗祇水に導かれて・・・お抹茶処 宗祇庵

2018.01.17

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岐阜県郡上市八幡町(ぐじょうし はちまん町)を象徴する史跡に宗祇水(そうぎすい)があります。

1985年、名水百選第1号に指定されました。昔から湧き出る清らかな泉は町の人々の「生活の水」としての役割をはたしています。宗祇水の名の由来は、室町時代、連歌の宗匠として知られた飯尾宗祇がこの泉のほとりに草庵を結び、この水を愛飲したことから名付けられました。水神を祀った小さな社の傍に佇む日本家屋に「お抹茶処 宗祇庵(そうぎあん)」があります。

 

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昨年の春にオープンした、お抹茶カフェです。郡上八幡は、城下町の古い町並みが残っています。最近では若い移住者が古い日本家屋や町屋を借りて新たなライフスタイルを築いています。この町に残る古い文化に憧れを感じ、町の人々と交わりながら、この町に新しい風を吹かせる。
「お抹茶処 宗祇庵」の店長 北原 美奏(みかな)さんも郡上八幡に魅せられた若者の一人です。

 

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昨年の年末、宗祇庵を訪れると玄関の右上に南天で作られる赤い玉「南天玉」が吊るしてありました。郡上八幡は南天の生産量が多いことで有名です。
のれんをくぐり、2階に上がると和の空間をいかした、しつらえのカフェがあります。

 

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庭には冬枯れの紅葉とドウダンツツジ。春や秋には木々の美しい景色が想像できます。赤い橋が架かり、その下には小駄良川(こだらがわ)が流れます。

 

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「お抹茶処 宗祇庵」店長の北原さんは長野県出身です。大学時代は横浜で過ごしました。大学のゼミとインターンシップで郡上八幡に滞在した経験が実を結びます。
北原さんは、古い町並みが残る城下町で、「郡上おどり」などの伝統文化を継承し、営みを築くこの町の人々の魅力ある生き方に憧れを抱くようになりました。

観光客が多く訪れる史跡、宗祇水に面する日本家屋に、ご縁を頂いた北原さんは、多くの人達に、この場所を楽しんでいただきたい。そんな思いを巡らし、たどりついたのが「お抹茶」でした。
学生時代にお世話になった郡上八幡の人達に感謝の思いを込めて、この町に貢献したい。北原さんの熱い思いが宗祇庵のメニューに表現されています。

 

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宗祇庵パフェの絵柄は、郡上おどりの代表曲「かわさき」です。月明りを手で隠しながらお城を仰ぎ見るポーズが描かれています。濃厚な味わいの抹茶は岐阜県産です。グラスの下には郡上のほうじ茶で作られたゼリーが琥珀色に輝きます。前回のコラムでご紹介させて頂いた郡上八幡の「田中茶舗」のほうじ茶です。郡上八幡を愛する北原さんの思いが伝わります。季節ごとにメニューも変わり、夏には岐阜県産抹茶のかき氷も登場します。そして冬にはアツアツのお抹茶スイーツが華やかに彩りを添えます。

 

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「岐阜抹茶チョコフォンデュ」お抹茶とのセットです。
とても濃厚なフォンデュです。厳選したホワイトチョコレートをベースに岐阜県産の抹茶を使い、ミルクや生クリームなどは一切使っていない濃茶風のフォンデュです。お抹茶のほろ苦さとホワイトチョコの甘味とコクがまろやかに調和します。小さな重箱には、色とりどりのフルーツやスイーツ。驚くことに、抹茶アイスもあります。アツアツのフォンデュをアイスにかけると、フォンデュが固まり、パリッとした食感が楽しめます。ダブル抹茶でとても美味しいです。フォンデュが焦げないように、時々、へらでかき混ぜるのも楽しいひと時です。お菓子も「とちの実せんべい」「鮎菓子」など、岐阜を代表するお菓子が並びます。イチゴのような酸味のあるフルーツにも濃厚な抹茶フォンデュはとてもよく合います。

 

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「とちの実せんべい」をつけてみました。フォンデュの濃厚さがよくわかります。

 

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岐阜県産の抹茶を使った和三盆抹茶ラテ(冷)とフロートも人気です。
最近では海外のお客様も珍しくはありません。タイの旅行社や香港のメディアの取材も受けています。可愛らしく、美しく、自由な発想を巡らし、抹茶のメニューを広げていく。その中に、日本人のお茶への想いを大切に注いでいく姿を、北原さんに感じる事ができます。
お抹茶をお客様にお出しする時、茶道の作法にある2回お茶碗を回して、お客様にお茶碗が正面に向くようにお出しする姿がとても丁寧で、おもてなしの心が伝わります。伝統的なお抹茶の世界とモダンで自由なお抹茶の世界が宗祇庵では自然に調和します。

宗祇水にまつわる「宗祇」は室町時代に活躍した連歌師です。文明元年(1469年)郡上の領主、東常縁(とうつねより)に古今伝授を受けるため、現在の宗祇水のある付近に移り住みます。東常縁は武将、そして歌人でもあり、藤原定家の血を受け継いでいます。古今伝授とは古今和歌集の解釈を秘伝として師から弟子に伝える事です。当時、古今伝授を受けるということは、大きな権威を伴うことでした。文明3年(1471年)伝授が終わると、宗祇は都へと帰ってゆきました。

 

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宗祇庵の床の間には郡上八幡在住の書家が書いてくださった歌の掛け軸が設えてあります。
古今伝授を終え、泉のほとり(現在の宗祇水)で別れる時に、東常縁が宗祇に餞別として詠んだ歌です。

もみじ葉の流るる滝田白雲の
花のみよし野思ひ忘るな  常縁

この歌には日本人の美意識を忘れないで欲しいという強い想いが込められているそうです。
清らかな泉と和歌にまつわる史跡、宗祇水のほとり、宗祇庵でお抹茶を振る舞う北原さん。
多くの日本人、そして海外の人々にお抹茶の美味しさと、美しさが伝わっていきます。
二人の歌人、常縁と宗祇も、傍らで優しく見守っているのではないでしょうか。

 

お抹茶処 宗祇庵
岐阜県郡上市八幡町本町862-10

 

《これまでの記事》
●vol.1_見渡せば、山、山、山。山の中の岐阜のお茶
●vol.2_清らかな山の恵み。美しい村、東白川村のお茶
●vol.3_美濃白川茶発祥の地に残る いにしえのお茶
●vol.4_東白川村 昔ながらの秋のお茶
●vol.5_東白川村 五加(ごか)地区の無農薬の茶畑で・・・・。
●vol.6_郡上八幡の人々が愛する美味しいほうじ茶 田中茶舗

この記事を書いた執筆者

平林典子日本茶アンバサダー

平林典子(ひらばやしのりこ)

「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。