ENJOY!日本茶

ホーム
コラム
> 岐阜のお茶旅 vol.30_ぶらり常滑 急須の里めぐり お気に入りの急須に出会う旅

岐阜のお茶旅 vol.30_ぶらり常滑 急須の里めぐり お気に入りの急須に出会う旅

2019.12.17

 

11月の始め、愛知県常滑市で開催されたイベント「第7回 ぶらり常滑 急須の里めぐり」を満喫してきました。常滑市と言えば、常滑焼。日本六古窯の一つで歴史も古く、規模が大きいのが特徴です。「とこなめ招き猫通り」の壁の上には巨大招き猫、「見守り猫とこにゃん」がひょっこり顔を出します。

 

 

常滑市の中心市街地の小高い丘に「やきもの散歩道」があります。昭和初期頃最も栄えた窯業集落一帯です。今も点在する煙突、窯、工場など時代と共に使われなくなった歴史的産業遺産を巡る観光スポットとなっています。この集落には現在でも多くの作家や職人が住み、活動をしています。細い路地が入り組んだノスタルジーな町の中、常滑焼のギャラリーやカフェを巡りながら、ぶらりと散歩が楽しめます。

今回のイベント「ぶらり常滑 急須の里めぐり」は「やきもの散歩道」を中心に開催されました。普段は見る事の出来ない窯元での製作実演見学、愛知県手揉み保存会、愛知県茶業青年会の皆さんによるお茶の手揉み実演、生菓子の実演販売、煎茶道の茶席や日本茶、中国茶の呈茶席が8ヶ所で催されました。そして、常滑焼の15名の作家による急須の展示会がギャラリーショップで開催されました。

 

 

「やきもの散歩道」では、大きな登り窯を見ることができます。
1887年(明治20年)頃に築かれた窯で、1974年(昭和49年)まで使用され、日本で現存する登り窯としては最大級です。

 

 

明治期の土管や昭和初期の焼酎便が壁面と足元に使用された細い坂道が幾つかあり、常滑ならではの風景となっています。焼き物の町を肌で感じながら、まずは陶芸作家による急須作りの見学へ足を運びました。

 

 

村越風月さんによる1960年代まで使われていた手回しロクロの実演です。電動ロクロが広まってからは、ほとんど使われていません。

 

 

実演中は緊張した空気に包まれます。なかなか見ることができない貴重な技の数々を見学することができました。

 

 

山田陶山さんによる「パンパン製法」の実演です。明治の初めに伝えられた中国、宜興窯の急須制作技法です。ロクロを使わず、板のような粘土をそれぞれのパーツに切り取り形を作り上げます。

 

 

そして、木のしゃもじのようなヘラでパンパンたたきながら、形を整えていきます。

 

 

急須はお茶碗と違いそれぞれのパーツが繊細で複雑な作業となり、高度な技術が求められます。

常滑で急須が作られるようになったのは、富裕層の間で煎茶が流行し始めた江戸時代後期と言われています。煎茶も急須も中国から伝来したものです。

赤い急須は朱泥という土で作られます。常滑朱泥は160年ほど前に完成しました。中国江蘇省、宜興の朱泥の急須はたいへん高価なものでした。幕末、宜興の土と常滑の土が似ていることに気づいた医師の平野忠司が陶工たちと協力して土と焼き方の研究を進め、1854年(安政元年)に朱泥焼が完成しました。平野忠司らが開発した朱泥は、掘り出した原土を水で溶いて、きめ細かい粘土だけを沈殿させて作りました。以降、朱色が常滑の急須の定番色となりました。今では朱泥原土が少なくなり、合成朱泥が主流となりましたが、本朱泥にこだわり急須を作る作家もいます。

 

 

見学の後は美味しいお茶とお菓子で一休み。「あいち紅茶」の魅力を伝える、日本茶インストラクター 中根めぐみさんの和紅茶のお席です。常滑焼で丁寧に淹れた紅茶は香り高くまろやかな味わいです。

 

 

常滑焼の急須を愛でながら、手に取りながら、和やかに「あいちの紅茶」を堪能しました。和菓子との相性もぴったりです。

 

 

「急須の里めぐりでは」は急須作家と話をしながらお気に入りの急須を探すことができます。フレッシュな感性を作風に生かした若手作家の山田優太朗さんにお話を伺うことができました。山田さんはお茶にも造詣が深く、日本茶、中国茶、紅茶、種類や国を問わず様々なお茶を日頃から楽しんでいます。常滑の土にこだわり、土づくりもご自身の手で行い、本朱泥にこだわりを持つ作家のひとりです。

 

 

全て自分の手で作り上げたい一心から、急須の茶こしのパーツもご自身で作り上げます。真鍮の細いスティックで一つ一つの穴を開けていきます。よく拝見すると、穴がとても美しいです。

 

 

私がこの日、購入した山田勇太朗さんの急須です。手に取ると、とても軽く持ち手が繊細な曲線で手に優しく馴染んできます。

 

 

浅蒸し、深蒸しの煎茶、玉露、雁金、烏龍茶、紅茶、様々なお茶を淹れてみましたが、とても淹れやすく、茶切れがよく、注ぎ口からの垂もなく、綺麗に美味しくお茶を淹れることができました。山田さんは東京、青山の国連大学前で開催されるFarmers Ⅿarket @UNUの「Tea For Peace」のイベントにも出店しています。

「ぶらり常滑 急須の里めぐり」は急須やお茶に関わる様々な人達と出会い、楽しい会話と、美味しいお茶が楽しめる心温まるイベントです。
常滑は名古屋駅から名鉄常滑線で約35分、中部国際空港駅から名鉄空港線で約5分で到着します。アクセスが良く、気軽に立ち寄れます。お気に入りの急須を求めて、ぶらり、ぶらり、出かけてみませんか。

 

 

《これまでの記事》
●vol.1_見渡せば、山、山、山。山の中の岐阜のお茶
●vol.2_清らかな山の恵み。美しい村、東白川村のお茶
●vol.3_美濃白川茶発祥の地に残る いにしえのお茶
●vol.4_東白川村 昔ながらの秋のお茶
●vol.5_東白川村 五加(ごか)地区の無農薬の茶畑で・・・・。
●vol.6_郡上八幡の人々が愛する美味しいほうじ茶 田中茶舗
●vol.7_宗祇水に導かれて・・・お抹茶処 宗祇庵
●vol.8_郡上八幡 第13回 小那比茶 茶摘み・茶もみ体験
●vol.9_美濃焼の旅 土岐市 織部の日のお茶会
●vol.10_西美濃に銘茶あり 美濃いび茶 茶山正
●vol.11_尾張名古屋のお抹茶ワールド お茶と抹茶スイーツの店 茶縁
●vol.12_岐阜のマチュピチュ 天空の茶畑
●vol.13_有楽苑 国宝茶室 如庵  愛知県犬山市
●vol.14_Barスタイルで夏の白川茶を楽しむ。 カガミガハラ・スタンドで東白川村のお茶イベント
●vol.15_清らかな山の緑風が香る白川茶 東白川村 茶広農園
●vol.16_天空の茶園で茶の実油の魅力を伝える 春日乃売茶翁
●vol.17_郡上八幡 城下町に栄えた茶道文化 町屋カフェ さいとう
●vol.18_名古屋栄のお抹茶専門店 茶々助 お抹茶を味わう日
●vol.19_近江茶の老舗 中川誠盛堂茶舗 日本最古の茶園のお茶が蘇る「日吉銘茶」
●vol.20_伊深の里から、新たな発信。日本茶と日本古典芸能の世界へ。茶霞(さか)O’carre(オキャレ)
●vol.21_伝統の美濃白川茶をスタイリッシュにアプローチ 美濃加茂茶舗
●vol.22_美味しい「いび茶」を求めて 岐阜市の老舗 明治屋茶舗
●vol.23_郡上の美味しいお茶と昔ながらのお団子を召し上がれ 団子茶屋郡上八幡
●vol.24_岐阜の南西端の美しい里山 美濃上石津茶 平塚香貴園
●vol.25_岐阜の銘茶 白川茶の里 白川町黒川
●vol.26_甘く華やぐお茶の香り 昔ながらの白川茶  嶋田園
●vol.27_チーズと日本茶が出会った日 国産ナチュラルチーズ博in NAGOYA
●vol.28_伝統から進化へ 洗練された新世代の白川茶 新田製茶
●vol.29_自然栽培から生まれる白川薪火三年番茶 和ごころ農園

この記事を書いた執筆者

平林典子日本茶アンバサダー

平林典子(ひらばやしのりこ)

「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。