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岐阜のお茶旅 vol.20_伊深の里から、新たな発信。日本茶と日本古典芸能の世界へ。茶霞 O’carre(サカ オキャレ)

2019.02.17

 

岐阜県南部に位置する美濃加茂市伊深町に、昨年6月、日本茶のメニューが豊富なカフェ、
茶霞(さか)O’carre(オキャレ)がオープンしました。
淡い緑の可愛らしい木造の建物は、国登録有形文化財、旧伊深村役場庁舎です。昭和11年(1936年)創建当時の外観を復元し、内装は早稲田大学創造理工学部の古谷誠章教授と学生らが住民ワークショップを開いてデザインを監修しました。
館長、運営者に選ばれたのは、岐阜市内の芸妓団体、鳳川技連(ほうせんぎれん)に所属し、幇間(ほうかん)芸妓として活躍する鳳川辰次(ほうせん たつじ)さんです。着物姿が優雅で凛としています。江戸時代から続く岐阜の花柳界は、長良川の鵜飼に華を添えてきました。

 

 

辰次さんは2014年、大学進学を機に岐阜に移り住みます。その年に、「第二回鳳川をどり」のボランティアスタッフ募集のポスターを偶然目にします。以前から、日本の古典芸能に興味を抱いていた辰次さんはスタッフとして参加します。それを機に、岐阜市で花柳文化を継承する鳳川技連に所属する運びになります。この世界で最初に身に付けるお稽古は「茶道」でした。お茶の稽古を重ねるたびに、抹茶の美味しさに魅了されていきます。茶霞(さか)O’carre(オキャレ)では、沢山のお客様に抹茶の美味しさを伝えたいと、抹茶のメニューに思考を凝らしています。辰次さんを館長に、鳳川技連の人々がスタッフとして茶霞(さか)O’carre(オキャレ)を盛り上げています。

 

 

ノスタルジックな店内です。窓の向こうには伊深小学校が見えます。

 

 

最初に運ばれるのは、メニューと冷たい「甘露水」です。抹茶に自家製の白蜜を加えて作ります。ほんのり甘くお茶のまろやかな風味が喉を潤します。

 

 

お濃茶と季節の主菓子。飲み終えたら、お湯を足して、最後はお薄でゆっくり楽しむことができます。お濃茶もお薄も数種類のメニューがあります。お薄には最近生産されるようになった、岐阜県の揖斐や白川町の抹茶があります。
今、話題の「抹茶ビール」や夏季限定の「舞妓さんちのかき氷」など、楽しいメニューが魅力的です。かき氷のシーズンには3時間待ちの日もあるそうです。

 

 

煎茶は3種類あり、品種や産地、茶園にこだわっています。この日、私が注文したのは、岐阜県の白川茶(加茂郡白川町の鱒渕茶園)品種は、「おくみどり」です。
O’carre(オキャレ)おすすめの淹れ方で、誰もが美味しくお煎茶が楽しめます。急須でお茶を淹れたことがない人でも安心です。最初は水出しでお茶の旨味を味わいます。急須に茶葉を入れて、茶椀に入れてあるお水を急須に入れ数分待ちます。

 

 

すっきりとしたお茶の甘みを味わった後は、ぬるめのお湯で淹れます。まろやかな渋みが味わい深く感じます。3煎目は熱いお湯で淹れて、お茶の香りを楽しみます。季節の主菓子もついて、ゆっくりお茶を味わえます。

 

 

最後はだし醤油をかけて茶葉を頂きます。上品な茶葉のお浸しです。とても気軽なお値段で500円で頂けます。お煎茶には、辰次さんの生まれ故郷、熊本県産のお煎茶「湧雅のここち」(800円)もあります。

 

 

和室はワークショップやイベントに利用されます。茶霞(さか)O’carre(オキャレ)は、伊深町に残る歴史や文化を大切にし、その想いをいろいろな形で伝えています。その一つに、伊深小学校6年生の児童5人に、伊深に伝わる地芝居のお囃子を再現しようと、小鼓の稽古を支援していることです。このカフェの運営に携わる鳳川技連の人々がこの地に途絶えていたお囃子を子供たちに新たに伝えるその姿は、素晴らしい縁を感じます。
新年には「喜久次・辰次による初舞とお茶」と題し、お茶会が開かれました。日本の芸能文化、そして日本茶の世界が茶霞(さか)O’carre(オキャレ)から、発信されていきます。

 

 

茶霞(さか)O’carre(オキャレ)が立つ玄関前の道は「おきゃれ畷(なわて)」と呼ばれています。伊深の里に残る民話です。今から680年ほど前、京都から一人のお坊さん、関山慧玄(かんざんえげん)さんがやって来て、9年間、村人達の生活を助けながら、厳しい修行に励んでおりました。村人からは「エゲンさ」と呼ばれ、親しまれ、頼りにされていました。ところが、花園法皇の勅願により都に帰ることになります。慧玄さんとの別れを悲しむ村人達が見送ったこの道が「おきゃれ畷」と呼ばれています。いつまでも見送る村人達に、慧玄さんは「もう見送りはたくさんじゃ。おきゃれおきゃれ。」と言いました。慧玄さんはその後、臨済宗妙心寺派を開山し「関山無相大師」となります。

 

 

その後、伊深の里には「正眼寺」(しょうげんじ)が建てられます。茶霞(さか)O’carre(オキャレ)から「おきゃれ畷」を東へ歩くと、正眼寺の山門があります。石畳の階段を上ると、清められた静寂な空気が流れ、このお寺が厳しい修行の道場であることを確信します。茶霞(さか)O’carre(オキャレ)で美味しい日本茶を楽しみ、この地の歴史に触れながら伊深の里を歩く穏やかなひと時を、味わってみてはいかがでしょう。

茶霞(さか)O’carre(オキャレ)旧伊深村役場庁舎
岐阜県美濃加茂市伊深町895

 

 

《これまでの記事》
●vol.1_見渡せば、山、山、山。山の中の岐阜のお茶
●vol.2_清らかな山の恵み。美しい村、東白川村のお茶
●vol.3_美濃白川茶発祥の地に残る いにしえのお茶
●vol.4_東白川村 昔ながらの秋のお茶
●vol.5_東白川村 五加(ごか)地区の無農薬の茶畑で・・・・。
●vol.6_郡上八幡の人々が愛する美味しいほうじ茶 田中茶舗
●vol.7_宗祇水に導かれて・・・お抹茶処 宗祇庵
●vol.8_郡上八幡 第13回 小那比茶 茶摘み・茶もみ体験
●vol.9_美濃焼の旅 土岐市 織部の日のお茶会
●vol.10_西美濃に銘茶あり 美濃いび茶 茶山正
●vol.11_尾張名古屋のお抹茶ワールド お茶と抹茶スイーツの店 茶縁
●vol.12_岐阜のマチュピチュ 天空の茶畑
●vol.13_有楽苑 国宝茶室 如庵  愛知県犬山市
●vol.14_Barスタイルで夏の白川茶を楽しむ。 カガミガハラ・スタンドで東白川村のお茶イベント
●vol.15_清らかな山の緑風が香る白川茶 東白川村 茶広農園
●vol.16_天空の茶園で茶の実油の魅力を伝える 春日乃売茶翁
●vol.17_郡上八幡 城下町に栄えた茶道文化 町屋カフェ さいとう
●vol18_名古屋栄のお抹茶専門店 茶々助 お抹茶を味わう日
●vol19_近江茶の老舗 中川誠盛堂茶舗 日本最古の茶園のお茶が蘇る「日吉銘茶」

この記事を書いた執筆者

平林典子日本茶アンバサダー

平林典子(ひらばやしのりこ)

「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。